草津温泉にて時間湯を体験してみた&時間湯に関する若干の法的検討

※2020.9.18追記アリ(ココをクリックでジャンプします)

皆様おはようございますこんにちはこんばんは。
温泉ソムリエべんごちの けーぶいえぬ でございます。


今更ですが,2019年6月某日,草津温泉・千代の湯にて「時間湯」を体験してきたので,温泉ソムリエらしく(?)その経験など語ってみようと思います(*`・ω・´*)!!

そもそも何で草津温泉で「時間湯」なるものをやってみようかと思い立ったのは,以下の各記事がTwitterで回ってきたのがきっかけでした。

(上毛新聞の元記事は2019.9.2現在で閲覧できない状態)

なんでも,「湯長」制度が医師法・薬事法・薬機法違反になるだとか,会計が不透明だとかなんとか。
そうこうしてたら,こんな"香ばしい"記事まで出てきた。



上毛かるたの「ふ」の札の辺りの某町に数年間だけ暮らしていたにすぎないワイ職,草津町に何らの縁もゆかりもありませんので,これら報道を見て思ったことは,単純に

『なんか面白そうなことになってんなぁ』

ということだけでした。

面白そうだと思ってしまったが最後,廃止されるというのなら行ってみたいと思うのが世の常ではないでしょうか。
調べてみたら,湯治客じゃなくても時間湯が体験できるということではないですか!

と,いうことで!
ワイ職,温泉むすめ草津トークイベントにかこつけて,廃止される前に時間湯体験することにしたのです!


※その後,2019年8月1日に時間湯の無料化と湯温の引き下げが行われ,湯長制度が実質的に廃止されました。6月に行ってから草津にはまだ行けていないので,この記事を書いている今現在の時間湯がどうなっているのか分かりませんが,まだ時間湯体験ができていた頃の体験記として,この記事を遺しておこうと思います。

1 時間湯とは

そもそも,時間湯とは何なのでしょうか。

時間湯について定めた草津町時間湯浴場の管理及び利用料条例では,時間湯とは「古来より続く草津温泉独特の入浴方法」であると定義されていますが(同条例1条),これだけじゃ何がなんだかわかりませんね。

時間湯を管理する湯長側の定義によれば,時間湯とは「源泉100%の沸き立ての温泉をそのままの形で取り入れて、湯もみ(六尺から七尺の長板でかき回して温度を下げ成分を均一化、柔らかな湯にする)をして入湯する伝統的な入浴法」を言うそうです(時間湯公式HPは時間湯の無料化のため閉鎖されたためウェブアーカイブより抜粋)。

従来の時間湯の維持を主張するNPO法人草津湯治の会によると,「アドバイザーである湯長の指示の下に、湯揉み板で加水することなく湯を混ぜて温度を下げ、湯長の号令の下に、決められた時間だけ湯に入る。それを一日数回繰り返し、ある一定期間湯治を続けるのが、基本となる」のだそうだ(公式HPより)。

まとめると,要するに,「湯もみ→かけ湯→一定時間の入湯という過程を経る入浴方法のこと」を言うのでしょう。面白そうじゃないですか!!!

2 千代の湯は熱の湯源泉を利用

時間湯ができるのは,千代の湯 と 地蔵の湯 の2か所らしいのですが,湯治目的ではない時間湯体験は千代の湯でしかやっていないようだったので(多分),今回は千代の湯にお邪魔することに。 

諸々のサイトを見ると,千代の湯は湯畑源泉を使っている!という触れ込みなのですが,千代の湯の表にある看板及び待合室兼更衣室に掲げられていた温泉分析表によると,使用している源泉は湯畑温泉ではなく熱の湯源泉のようです。


とはいえ,熱の湯源泉と湯畑源泉は公図的には同じ場所にあるんですよねぇ(笑)
というか,所謂「湯畑」と言われている場所を含め,極めて広範囲で土地同士の筆界が未特定のため,実際は別の土地である熱の湯源泉と湯畑源泉の場所が良く分からないようになってしまっているんですね。
ちなみに,千代の湯の温泉分析表によると,「湯畑の歩道下にある配管より採水」と書いてありました。どの歩道だよ(。´・ω・)?

熱の湯源泉から湧出するお湯は,草津温泉で湧き出るお湯らしい,pH2.1の強めな酸性泉であり,殺菌効果と傷の治癒効果が高い含硫黄ーアルミニウムー硫酸塩・塩化物泉です。塩化物泉なので,湯冷めしにくく「温まりの湯」でもあります。

そんな刺激強めで熱っっついお湯にガツンと浸かるなんて,俄然時間湯の効果が気になりますねwktk!

3 実際にやってみた

それでは,御託はこの辺にしておいて,いざ,時間湯を体験してみましょう!

※なお本体験記は湯治としての時間湯の体験記ではなく,千代の湯で行われていた時間湯体験の体験記となります。そのことを前提に読み進めて頂けますと幸いです。

⑴ 更衣室に入る

入り口のドアを開けると,そこにはオバちゃんが座っていました。
湯長は男女1名ずついらっしゃったようですが,その女性湯長とは顔が違ったので,湯長直々の時間湯体験はやっていないのでしょう(湯治としての時間湯に専念しているのでしょうか。それとも……?)。
オバちゃんは湯長「役」として千代の湯に配属されていたのかもしれませんね。

ドアをくぐると,まずは更衣室に通されます。
更衣室は4畳ほどの大きさの小さい部屋で,扉1枚挟んだ向こう側に風呂場がある,という造りになっていました。
更衣室の中には,時間湯の作法が書かれた紙や,時間湯に関する新旧の新聞記事が所狭しと壁に貼られています。
そして,部屋の中央には灯油ストーブが置かれ,部屋の温度は30度に保ち続けています。控え目に言って,この時点で既に結構暑い

自分が更衣室に入ると,父子で来ているお客さんが既に床に座って待っていました。
自分も荷物を床に置いて待っていると,後から男性客が1人入ってきて,これで部屋の中にはワイ含め全部で4人に。
ストーブで十二分に暖められた4畳一間に男4人。実にアレだね!

そうこうしているうちに,湯長役のオバちゃんから時間湯に関する諸注意を聞きます。
そして,ここで入湯料560円を支払います。

入場券はこんなデザイン。今は無料化されたからもう見れないのかも!?

湯長役のオバちゃんから,バスタオルは2枚必要だとの説明があり,いずみんタオルしか持ってこなかったワイ将,記念にもなるしと思って,ここでバスタオルを1枚買うことに(1枚800円)。

何故バスタオルが2枚必要かと言うと,湯船から上がった後,汗が十分に出切ってしまうまで更衣室で待機することになるため,腰に巻く用に1枚,上半身にかける用にもう1枚必要だからです。
その他にも,ハンドタオルor手拭いが1枚必要なのと,汗が噴き出てくるので水分補給のために500mlペットボトルのお茶等を2本持ち込むことが必要とされていました。

オバちゃんから時間湯の説明を受けた後,脱衣しないまま,オバちゃんから風呂場に入るよう指示があるまで更衣室にて待機します。

⑵ 湯もみ体験

オバちゃんに誘導され,いざ裸一貫☆時間湯体験へレッツゴーである。

更衣室のドア(すりガラスの引き戸)の向こうには,木製の升でできた風呂場があります。
風呂場は目算でおおよそ10畳ほどの大きさで,中央にデーーーーンと湯舟が鎮座しており,風呂場を囲う壁には湯もみ用の板が立てかけられていました。
湯舟は間に仕切りが設けられていて,上から見るとドミノのような形をしています。
更衣室のドアを背中にして,湯船の右側が時間湯で浸かるためのエリア,左側が温泉の注がれるエリアとなっていました。

着衣のまま(勿論靴と靴下は脱いで裸足です)の時間湯体験者は,オバちゃんの誘導に従って湯舟の周りに立ちます。
そして,壁に立てかけてある神棚に向かって,オバちゃんと一緒にみんなで二礼二拍手一礼。神棚に祭ってある神様がどのような神様か分かりませんが,時間湯を神聖なものとする趣旨のもと始められた風習なのなのかもしれません。

その後,オバちゃんから湯もみ板を渡してもらいます。湯もみ体験のスタートです。
湯もみは,湯の温度を下げる目的だけでなく,熱い湯舟の中に入る前に体温を上げる,一種の準備運動の役割があるのだそうです。

風呂桶の周りにワイ職含め4人が立ち,湯長に手本を見せてもらったあと,4人でタイミングを合わせて湯もみの板を振ります。

オバちゃんが歌う草津節に合わせて,板をチョイナチョイナと右へ左へ。
これが結構大変!!だけど楽しい!!

だいたい5分ほど板を振っていたでしょうか,最初は透明だった湯舟は成分が攪拌されて白濁とした湯舟に変化しました!
そして湯気もモックモク♪これで時間湯をする準備は整いました。あとは入浴するだけです。

⑶ いざ時間湯

湯もみ板をオバちゃんに返して,更衣室に戻って脱衣し,腰に巻く用のバスタオル1枚とハンドタオルを用意して,オバちゃんに声をかけられるのを待ちます。

オバちゃんの「入ってきてください(めっちゃ上州弁なので聞き取りにくいけど多分そんなこと言ってた)」の声が聞こえ,少し水分補給してから腰にバスタオルを巻いていざ風呂場へ!

風呂場に入ると,まず浴槽の周りに桶を持って立ちます。
そして,①桶を使って足先に20回かけ湯します。
湯もみしたとはいえ,最初はメッチャ熱い!!!熱くて足がビリビリとします!!!
けど,5回目くらいから「あれ,何とかなるかも…」という気になり,10回目を過ぎれば慣れてあんまり熱くならない感じに!!!

正直,びっくりしました。
こんなに熱さが和らぐのか,と。
こんなに身体が慣れるものなのか,と。

足へのかけ湯に続いて,ハンドタオルを頭にかけたまま,②頭にだけかけ湯を20回繰り返します。これは立ち眩み等を防止するためだとか。
不思議なことに,頭へのかけ湯は足先への足湯と比べてそんなに熱く感じなかったんですよね。おそらく,足への20回のかけ湯で身体がお湯の熱さにかなり馴染んでいたのかもしれません。

頭へのかけ湯が終わったら,③ハンドタオルを絞って身体を叩くように拭きます
身体を叩くように拭くのは,ゴシゴシと身体を拭いてしまうと,お湯の成分が肌から落ちて失われてしまうからです。ゴシゴシ厳禁!

そんでもって,下半身に湯を何回かかけて身を清めた後,④いよいよ3分間の入浴です!
見るからに熱々の湯舟の中に,そろ~りそろ~りと足から入れていきます……かけ湯を十分にしたためか,意外に熱くない( ゚Д゚)!!
そこで,一気に肩まで浸かってみます…湯舟は肩までしっかり湯の中に浸かれるように,結構深めにできていました。
最初は熱ッッッい!!!!と思いましたが,ものの2~3秒で意外に熱くない…だとッ!?!?!?となりました(笑)

かけ湯の効果,パネェwww

そのまま3分間,瞑想するが如く,目を瞑ったままお湯に浸かるのですが,その間,オバちゃんの指示に従い,定期的に\オー!!!/と叫びます。
叫ぶことで,温泉の蒸気を肺に取り込むためだとか。
ぶっちゃけ,あんまり肺に入った感じはしないんだけど(笑),一緒に時間湯体験している男たちと一緒に叫ぶと,熱いお湯を我慢するやる気☆元気☆勇気憂希が湧いてくるようです。

1分経過で身体が完全にお湯になれた感じがしてきます。
そして,2分が経過すると,筋肉と汗腺が緩んでいるのが実感でき,顔と頭から汗が吹き出します。
3分が経ち,オバちゃんの合図で湯舟から上がると,軽く立ち眩みはするものの全身を血液が駆け巡っている感覚に襲われて,とても爽快な気持ちになります。

湯舟から上がったら,お湯をタオルで拭かずにバスタオルを腰に巻いたまま更衣室に戻り,もう1枚のバスタオル(いーーーずみーーーん!!!)を身体にかけ,汗が引くまで水分補給しながら更衣室内で安静にします。


が!!!全然汗が引かない!!!


時間湯でしっかり身体が温まっているので,そもそも汗が出る状態ではありましたが,ストーブによって30度に保たれた更衣室内で安静にしていることが相まって,汗が滝のように身体から噴き出してきます!!!
湧き出す男4人分の汗がストーブにより熱せられた更衣室は,まるでサウナのようでした!!
オバちゃんは「10分ほど安静にしたら着替えてくださいねぇ~」と言っていましたが,

10分じゃ全然汗引かねぇ……/(^o^)\

とめどなく流れる汗は,身体中に染み込んだ熱の湯源泉と結合し,硫黄の匂いを発します。
どんどん"硫黄汗"を吸い続けるバスタオル。汗が吹き出しそれを吸収するその姿は,まるで永久機関のようでした……流石「温まりの湯」だぜぇ……

湯舟を出てから20分ほど経ち,持ち込んだペットボトルのお茶も2本とも尽きかけてもまだ汗が湧き出て止まりません
そんな,汗を噴出させ続ける男4人。
8つの目は「もうそろそろ着替えてもよくね…?」と訴えかける……

ワイ「そろそろ…ですかね?(^▽^;)」
皆 「…ですねwww」

ようやく重い腰を上げて,服を着て千代の湯を後にしたのでした(笑)

4 時間湯を体験してみた感想

時間湯体験をした6月後半の草津の気温は,曇りだったこともあり,最高気温が20度行かない(16度くらい?)涼しい気温でした。
当日,私は上着を忘れてTシャツで草津入りするという大☆失☆敗をかましてしまい,終始肌寒い思いをしていたのですが,時間湯が終わったあと,身体のぽかぽかが止まらなかったですね。身体中の血管という血管が脈動しているのが分かるんです。血管の鼓動が実に気持ちいいんですよね。

また,身体中がほぐれたという感覚がありました。
身体の細胞という細胞がリラックスしているのが分かるような,そんな気分です。

なお,僕は肌に持病を持っているわけではないので,肌がどうのこうのという感覚はありませんでした。
ただ,肌がツルっとした感覚はありましたね。殺菌力の効果かな?よくわかりません(笑)

個人的に感動したのは,かけ湯のやり方が分かったことです。
今まで,「かけ湯で身体が湯に馴染む」という感覚が理解できなかったんですよね。かけ湯したって何も変わらないじゃないかと。そんな風に思っていたんです。
でも,今回,足先に20回,頭に20回,身体に数回,じゃぶじゃぶとかけ湯をしたことで,熱いお湯にも身体が慣れる感覚を知ることができました!

桶で数回バシャっとかけるだけじゃ意味なかったんですね。感動です。

難病が治るような感覚は感じませんでしたが,最高に気持ちよかった!!!
そんな時間湯体験でした☆

なお,上述したとおり,これは湯長廃止の時間湯体験について書いたものです。
まだ湯長廃止の時間湯を体験していないので,近いうちにまた草津に行ってみたいものです!

5 若干の法的検討

さて,このブログは曲がりなりにも「温泉ソムリエべんごち」を名乗る人間が書いているのですから,せっかくなので「時間湯」に関連して私的に気になる法的問題を何点か取り上げ,検討していきたいと思います。

⑴ 時間湯に薬事法・薬機法違反はあるか

上の方でリンク貼った『めざましテレビ』の記事によると,草津町の黒岩町長は,このようなことを言ったとのことです;

草津町黒岩信忠町長:
湯長の契約を更新しないきっかけは草津温泉時間湯保存会が作成した 時間湯Q&Aという文書です。
一番大きいのは湯長が実際に問診をしてそれに合わせた湯浴のスタイルで入れさせる…もうひとつは文書に『“効かない病はない”と言われるくらい効果があります」 と、書かれていること。このようなことを書くと薬事法・薬機法に触れる可能性がある。
出典:人気温泉地“草津”に異変!100年以上続く伝統文化が廃止の危機…


……。


薬事法って今は無いんですがそれは……。
黒岩町長は,どういうレクを受けてこんなこと言っちゃったのでしょうか……。


薬事法は,厳格な規制を医薬品等に対して課すことによって医薬品の品質・安全性を確保するとともに,医薬品・医療用具の研究開発が促進されるよう国が必要な措置を採ることを規定した法律でした
この法律は,2014年11月に薬機法(正式名称:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)へと改正され,発展的に解消しましたが,法律の目的は基本的に薬事法と同じです。

薬機法は,上記のような医薬品等による健康被害の防止という目的を達成するため,医薬品等の効果・効能を保証する記事や(同法66条2項),虚偽または誇大な記事(同法66条1項)を広告し,記述し,または流布してはならないと規定しています。
黒岩町長の発言の真意はよく分かりませんが,おそらく『時間湯Q&A』の『効かない病はない』の部分が効果・効能を保証するものとして違法だと言いたかったのだと善解できます。

ですが,残念ながら時間湯は,医薬品でも医薬部外品でも化粧品でも医療機器でもありません(各用語の定義は薬機法2条各号に定められていますが,同条には時間湯はおろか温泉という字もありません)。なので『時間湯Q&A』の記載は,「医薬品,医療部外品,化粧品又は医療機器」に関する記載ではないので,薬機法違反にはなりません

⑵ 『時間湯Q&A』の記載は景表法に違反するか

黒岩町長が「薬事法・薬機法違反」だと言ってしまったのは間違いであることがご理解いただけたかと思います。ただ,黒岩町長は元々法律家ではないので,「本当は別の法律違反のことを言いたかったのだ」と善解することもできます。

そこで,黒岩町長の真意を考えてみると,要するに不当な広告であるということを言いたいのだろうという推測が立ちます。

不当な広告と言えば,景表法(正式名称:不当景品類及び不当表示防止法)の出番です。


景表法は,「事業者(同法2条1項)」が自社商品and/orサービスについて,以下の3つの「不当な表示」のいずれかをすることを禁止しています(同法5条各号);

① 実際は外国産牛肉なのに『高級国産牛肉』だと表示するなど,実際より著しく優良なものだと誤認させるような表示(優良誤認表示
② 弁護士事務所がHP上で「今月だけの期間限定で着手金全額返金!」と表示していたのに翌月も同じ内容を表示し続けるなど,他社より著しく有利だと誤認させるような表示(有利誤認表示
③ その他一般消費者に誤認されるおそれがある表示 をすることを禁止しています。

これら不当表示を禁止しないと,消費者が不利益を被ってしまうので,景表法はこのような表示を禁止しているのです。


……とまぁ,ここまで偉そうに不当表示について説明しておいてアレなんですけども,『時間湯Q&A』の“効かない病はない”と言われるくらい効果がありますという表示が景表法に違反すると言えるのかぶっちゃけ分かりません(爆)
何故かというと,この『時間湯Q&A』を発行している草津温泉時間湯保存会が「事業者」に当たるか分からないからなんです。


例えば,同じ源泉を使用するA旅館とBホテルがあったとして,Bホテルが「ウチの温泉はA旅館の温泉とは違って全ての病気に効く!」とか広告していた場合を考えます。
これは,旅館業を営み「事業者」に該当するBホテルが,自社が提供する温泉というサービスに関して,実際は同じ源泉を使っているのに『全ての病気に効く!』などと著しく優良なものだと誤認させる「表示」をしていると言えるので,優良誤認表示としてアウトになるでしょう。
一方,BホテルのただのファンであるCさんが「Bホテルの温泉はA旅館の温泉とは違って全ての病気に効く!」と書いたチラシを配っていた場合,景表法違反にはなりません。Cさんが「事業者」としてBホテルの温泉を提供しているわけではないからです。

つまり,景表法に違反するかと言う問題は,草津温泉時間湯保存会なる団体が,上記のBホテルと同じ「事業者」に該当するのか,はたまたCさんと同じく無関係な第三者なのかという点に収束するのです。

時間湯が行われている千代の湯と地蔵の湯は,草津町が指定する「指定管理者」がこれを管理することとされています(地方自治法224条の2第3項,草津町時間湯浴場の管理及び利用料条例4条)。
そして,下記記事(↓)によれば,草津町は草津観光公社を「指定管理者」に指定し,同公社が湯長2名を臨時職員として雇用しているとのことです。
(※草津観光公社は,草津温泉スキー場や西の河原露天風呂などを運営している会社のようです。いずれも草津町から指定されているのでしょうね,おそらく。)

これらの事情を踏まえると,「湯長による時間湯の提供」というサービスを行っている「事業者」は,草津観光公社だということになります。


……あれ?
じゃあ草津温泉時間湯保存会ってなんなの?


ここが分からないので,景表法に違反するのかぶっちゃけよくわからないという結論になってしまうんです(汗)

仮に草津温泉時間湯保存会が草津観光公社または湯長と同視できる団体なのであれば,実質的に【保存会の広告=公社の広告】であると言えるでしょう。そうすれば景表法違反と言える余地が出てきます。
ただ,両者が無関係なら,保存会は上記の例でいえばCさんみたいな存在にすぎないことになります。


このあたりの細かい人間関係は,地元民じゃないと分からないのかもしれませんね……

⑶ 時間湯は医師法違反か

黒岩町長の『時間湯Q&A』の記載を問題視する発言の趣旨は,結局よくわかりません。
しかも,薬事法・薬機法違反の発言は,あの後ワイ職も色々とググってみたものの,前記のめざましテレビの記事以外では見つかりませんでしたので,おそらくこちらは本筋の理由ではなかったのかもしれません。

他方で,めざましテレビの記事でも上記文春オンラインの記事でも出てくるのが,医師法違反の問題です。

一番大きいのは湯長が実際に問診をしてそれに合わせた湯浴のスタイルで入れさせる… その一連の行為が医療行為に当たるということです。
出典:人気温泉地“草津”に異変!100年以上続く伝統文化が廃止の危機…

また湯長は湯治客の方に問診して、病気を治すようなことを言っている。これは違法な医療行為にあたります。
出典:湯けむり事件簿 草津温泉でにわかに巻き起こった「湯長」廃止騒動

医師法は,医師ではない者による「医業」を禁止しており(医師法17条),医師の資格を持たない者が医業を行ったときは刑事罰を科しています(同法31条1項1号)。

医師法では「医業」の定義が設けられていませんが,一般に「医行為を業として(=反復継続して行う意思を持って)行うこと」と理解されています。

では,何が「医行為」に該当するのでしょうか。

判例は,「医行為」を「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為(保健衛生上の危険性の要件)」と理解しており(最判昭和30年5月24日刑集9巻7号1093頁),通説も同様に理解してきました(判タ1451頁247頁)。
そして,判例は,断食道場の主催者が入寮希望者に対して病状・病歴を尋ねることや(最判昭和48年9月27日刑集27巻8号1403頁),医師ではない人間がコンタクトレンズの処方のために行われる検眼行為を行うこと(最判平成9年9月30日刑集51巻8号671頁),「医行為」に該当するとして医師法違反であると判断されてきました。

しかし,昨年出た所謂タトゥー医師法判決(大阪高判平成30年11月14日判時2399号88頁)により,「医行為」の要件は動揺しています。

タトゥー医師法判決は,「医行為」に当たるか否かを判断する要件として,上述の「危険性の要件」に加えて,「医療及び保健指導に属する行為であること(医療関連性の要件)」も別途必要であると判断しました。
そして,タトゥーは,施術によって感染症やアレルギー反応等が生じるおそれがあるものの(危険性の要件は〇),歴史的経緯等に照らすと,タトゥーは装飾的ないし象徴的な要素や美術的な意義があるから,医療を目的とする行為ではないから(医療関連性の要件は×),医師ではない彫り師がタトゥーの施術をすることは医師法に違反しないと判断しました。
※なお,同判決は,美容整形やアートメイク(しみ・やけど等を目立ちにくくする施術)は医療関連性があると判示していますので,医師ではない者がこれらのことを行うと医師法違反になると考えるべきでしょうね。

タトゥー医師法判決については,検察側が上告しているため確定した判決ではありませんが,今後この「医療関連性の要件」を踏まえた「医行為」の解釈がされていくものと思われます。


では,黒岩町長の言うように,湯長の行為は「医行為」に該当することになるのでしょうか?

正直言って,湯長たちが実際にどのようなことを行っている(いた)のか,私には分かりません。

前述したとおり,ワイ職が時間湯体験のため千代の湯に行ったときは,湯長ではなく湯長役のオバちゃんがお湯の管理を行っていました。
また,オバちゃんは我々に時間湯をするにあたっての注意事項の伝達や体調不良者は申し出るようにとのアナウンスはしていましたが,我々時間湯体験者の体調を観察するそぶりはありませんでしたし,肌の状態等を見られることもありませんでした。
なので,オバちゃんがやっていたことだけをもって判断すれば,問診のような行動は無いことになるので,危険性の要件を欠き適法となると考えられます。

ただ,もし仮に,湯長(and湯長役のオバちゃん)の湯治客に対する問いかけが湯治客の疾病の治療・予防を目的としていたものである場合,その問いかけは,その疾病の治療・予防のために必要な湯温・入浴回数を把握するための"問診"と言わざるを得ず,これは本来医学の専門的知識に基づかなければ判断することができない性質のものですから,危険性の要件も医療関連性の要件も充足し,「医行為」に該当すると解されます。

ただ,結局のところ,ワイ職は湯治客ではないので,実際に湯長がどのような行為をしていたのか一切知りません
なので,結局のところ湯長が医師法違反かどうかはよく分かりませんということになってしまいますね(爆)


☆2020.9.18追記☆
上記タトゥー医師法判決につき,2020.9.16,最高裁において検察官の上告を棄却するという判決が出されました(判決文はコチラ)。

最高裁は,「医行為とは,医療及び保健指導に属する行為のうち,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為をいうと解するのが相当である。」と述べ,「医行為」に該当するには①危険性の要件だけでなく②医療関連性の要件まで備える必要があると判断しました。
最高裁として初めて医療関連性の要件を具備しない限り「医行為」に当たらないと判断したものであり,実務上大きな影響を及ぼす可能性がある画期的な判断だと思います。

そして,最高裁は,さらに進んで,「ある行為が医行為に当たるか否かについては,当該行為の方法や作用のみならず,その目的,行為者と相手方の関係,当該行為が行われる際の具体的な状況,実情や社会における受け止め方等をも考慮した上で,社会通念に照らして判断する」と述べ,②医療関連性の要件を充足するかの判断基準も明示しました。
個人的には,いつもの"総合考慮論"だなとしか思いませんが,考慮要素が示されたのは大きいように思います。

以上の規範を示した上で,最高裁は,㋐タトゥー施術行為は社会的な風俗として受け止められてきたこと㋑タトゥー施術行為は医師免許取得過程等で習得することが予定されていないこと㋒歴史的にも医師免許を持たない彫り師が行ってきたものであって医師が独占して行う事態は想定し難いことから,②医療関連性が無いと判断して「医行為」該当性を否定しました。
よって,タトゥー施術行為は「医行為」に該当しないので,医師ではない人間がタトゥーを彫っても犯罪にならない,ということになったのです(上記解釈まとめ図も参照のこと)。

では,このタトゥー医師法判決に従った場合,時間湯についてどのように考えるべきでしょうか。
私見ですが,仮に①危険性の要件を充足したとしても,②医療関連性要件を充足せず,時間湯は「医行為」には該当しないと考えます。
何故なら,タトゥー医師法判決の㋐~㋒と同様の観点から時間湯について検討すると,

㋐時間湯が草津温泉における一種の"温泉文化"として長年受容されてきたものであり,医療及び保健指導に属する行為とは考えられてこなかったこと
㋑入浴方法一般に関する知識・技能を医師免許取得過程で習得することが予定されていないこと(※多分。この辺は医療従事者の方のご意見を頂戴したく…m(_ _)m)
㋒歴史的にも長年に渡り医師免許を持たない湯長によって行われてきたものであり,医師が独占して行うべきものとは想定し難い

と解され,タトゥー医師法判決同様,②医療関連性要件を充足しないといえるからです。
まぁこの辺りは実際に裁判になってみないとどういう結論になるのかは分かりませんけどね!(爆)

⑷ 時間湯の問題は法律論の問題ではないのではなのか?

このように色々と頭を捻って考えてきたものの,この時間湯騒動は,結局のところ法律論ではなく政治的な話なのではないかという,元も子もない結論に至ってしまうのが人間の悲しいSAGAですね(←

時間湯の無料化及び湯長の廃止が実行されて約1か月後,観光経済新聞に草津温泉観光協会会長のインタビュー記事が出ました。
この記事に,ちょっと気になる発言がありましたので引用します;

 ――草津温泉の最近の話題は時間湯問題ですね。100年以上の伝統がありますが、8月1日からは時間湯の無料化が始まり、48度とされてきた湯の温度も引き下げられ、湯長制度も実質的に廃止されました。 「問題の根底にあるのは、時間湯の管理がきちんとなされていなかったということです。収支が不明朗で、湯長が私物化していたことが分かりました。膿を出して再出発する、と理解しています。管理すべき町にも責任があり、町長も給料を15%カットしたと聞いています。時間湯は形が変わりましたが、また文化を作り上げていけばいいのではないでしょうか」

……。


\なんだよ薬機法も医師法も関係ねぇじゃんか!/


結局,湯長側と町側の間の"アレやコレや"が問題だっていう話です今までの議論は何だったのか/(^o^)\

まぁでも逆に分かりやすいですよね!
政治的な力関係で湯長側が敗北した,そういうことなのか,と。

ちなみに,調べてみると,観光協会会長は,湯畑目の前にある某有名老舗ホテルの女将さんらしいですね。
そんな会長さんが町長側に付いたということは,多くの旅館・ホテル経営者が町長側に付いたということの証左のように感じられます(私は草津の人間ではないので実際のところは知らんけど)。湯長側も,町内に"政治的な力"を持つ味方を作れていれば,結果は変わっていたのかもしれませんね。



⑸ 時間湯の無料化に問題はないか

そんなこんなのすったもんだがあり,2019年8月1日から湯長が廃止され時間湯も無料となったわけで(ワイの560円~~~!(笑)),時間湯が無料となったことは旅行客からすればある意味喜ばしいことなのかもしれません。

ただ,1点気になるのは,草津町時間湯浴場の管理及び利用料条例が改正された様子がないことです。
これの何が問題かというと,条例を改正しないまま無料化して良いの?ということです。

同条例6条1項は「時間湯浴場の利用者は、利用料金を支払わなくてはならない。」と規定しています。
ということは,素直に考えれば,この規定が残っている限り,時間湯をしたいと思った観光客は,必ず利用料金を支払わなければならず,また,草津町も,利用料金を必ず徴収しないといけないことになります(同条2項の規定からもそのように解釈できます)。

そして,例規集によれば,同条例は施行されて以降改正されておらず,また廃止もされていないことが分かります。
勿論,例規集が更新されるまでタイムラグがあるかもしれないので,実際は既に廃止されているのかもしれません。
ですが,もし廃止されていないということであれば,少なからず問題があるように思います。

6 いかがでしたか(ry

いかがでしたか?
何が分かって何が分からないかが良くわからなくなりましたね!?(←

なんだかんだ色々と書いてきましたけど,粗製濫造されたいかがでしたか系まとめブログ以上のものを書けた気が全くしませんが(笑),温泉法学の世界も色々考えるところがあって面白いなぁ~と思っていただければ望外の極みです。

個人的には,時間湯が無料化されてからまだ草津温泉に足を運べていないので,近いうちにまた草津に遊びに行きたいなと思っています。ちちやの饅頭を食いに行くためだけに草津に行く価値isある。

あと,なんだかんだ言って時間湯はとっても気持ちよかったので,また時間湯体験したいなと思いますし,皆様にも時間湯体験に足を運んでみてほしいなと思っています。

…この記事書いてたらまた草津に行きたくなってきた……w

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